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名古屋地方裁判所 平成6年(わ)425号 判決

被告人

本店所在地

愛知県豊田市御幸町六丁目六番地

名称

協友鈑金合資会社

代表者

無限責任社員 加藤一枝

氏名

加藤一枝

年齢

昭和一三年三月一日生

本籍

愛知県豊田市上挙母一丁目九番地

住居

同市朝日ヶ丘一丁目一二番地一二

職業

会社役員

氏名

磯村興里

年齢

昭和一二年一二月二四日生

本籍

愛知県西加茂郡三好町大字明知字砲録山二番地三六〇

住居

右同所

職業

無職

事件名

被告人協友鈑金合資会社、同加藤一枝に対する法人税法違反被告事件

被告人磯村興里に対する法人税法、所得税法違反被告事件

検察官

樋口勝男

弁護人

中西英雄(被告会社、被告人加藤)

弁護人

後藤昌弘(被告人磯村)

主文

被告人協友鈑金合資会社を罰金一〇〇〇万円に処する。

被告人加藤一枝を懲役一年に処する。

被告人磯村興里を懲役二年及び罰金一〇〇〇万円に処する。

被告人磯村興里において、右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間右被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から、被告人加藤一枝に対し三年間刑の執行を、被告人磯村興里に対し四年間懲役刑の執行をそれぞれ猶予する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人協友鈑金合資会社(以下、被告会社という。)は、愛知県豊田市御幸町六丁目六番地(平成四年四月三〇日までは、同市上挙母一丁目一〇番地)に本店を置き、自動車部品の製造業等(平成五年七月一四日以降は、不動産賃貸業)を目的とする合資会社であり、被告人加藤一枝は、被告会社の無限責任社員として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人加藤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告人磯村興里と共謀の上、架空の自動車部品製造原価を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、

一  平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が六三九六万一九九九円あったのにかかわらず、平成二年五月三一日、愛知県岡崎市明大寺町本町一丁目四六番地所在の所轄岡崎税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一七三五万〇三六四円で、これに対する法人税額が五九九万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の法人税額二四六四万〇五〇〇円と右申告税額との差額一八六四万四四〇〇円を免れ、

二  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が五六七八万八二七四円あったのにかかわらず、平成三年五月三〇日、前記岡崎税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一二六八万四九九九円で、これに対する法人税額が三八七万一一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の法人税額二〇四一万〇一〇〇円と右申告税額との差額一六五三万九〇〇〇円を免れ、

三  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が三二四一万一四七六円あったのにかかわらず、平成四年六月一日、前記岡崎税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が九一四万一三八五円で、これに対する法人税額が二五六万二六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の法人税額一一二八万八八〇〇円と右申告税額との差額八七二万六二〇〇円を免れた。

第二  被告人磯村興里は、竹本末男が、実父の竹本幸吉から同人の所得税確定申告手続等を委任され、平成三年三月一五日、愛知県刈谷市神明町三丁目五〇一番地所在の所轄刈谷税務署において、同税務署長に対し、平成二年度における竹本幸吉の総所得金額が一六〇万三六〇〇円で、これに対する所得税額が八万五四〇〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が四億二六一八万〇二五二円であるが、平成三年一一月三〇日までに見積価額三億八〇〇〇万円の買換資産を取得する見込みであり、租税特別措置法三七条四項に定められた特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の特例により、課税長期譲渡所得金額は一億四八七二万九一五七円で、これに対する所得税額が三五一八万二二五〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書、買換承認申請書を提出し、右特例を受けることについて右刈谷税務署長の承認を受けたものであるが、右竹本幸吉の所得税を免れようと企て、右竹本末男と共謀の上、平成三年一二月三一日までに右特例の対象となる買換資産を取得した事実がないのに、買換資産を取得した旨の架空の契約書を作成するなどして、右特例の対象となる事実があったかの如く仮装し、右特例の修正申告期限である平成四年四月三〇日までに、右刈谷税務署長に対して所得税の修正申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって、不正の行為により、平成二年度における竹本幸吉の分離課税の長期譲渡所得に対する正規の所得税額一億〇四六三万〇四〇〇円と右確定申告税額との差額六九三六万二八〇〇円を免れた。

(証拠)

(括弧内の甲イ、乙イの番号は第四二五号事件の検察官請求番号の略であり、甲ロ、乙ロの番号は第四二四号事件の検察官請求番号の略である。)

(被告会社、同加藤の関係)

第一の各事実について

1  被告人加藤一枝の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書(乙イ3)

(3)  上申書(乙イ6)

2  被告人磯村興里の検察官調書(甲イ8〔ただし、不同意部分を除く。〕〔抄本〕)

3  藤川和久の検察官調書(甲イ20)

4  磯村雄喜、磯村兵衞、杉浦甲、金澤正一、加藤等、幸地由里子の質問てん末書(甲イ10ないし13、15、19)

5  査察官調査書(五通、甲イ9、14、16、17、18)

6  捜査報告書(甲イ27)

7  登記簿謄本(乙イ7)、閉鎖登記簿謄本(乙イ8)

第一の一の事実について

8  証明書(甲イ5)

9  脱税額計算書(甲イ2)

同二の事実について

10  証明書(甲イ6)

11  脱税額計算書(甲イ3)

同三の事実について

12  証明書(甲イ7)

13  脱税額計算書(甲イ4)

(被告人磯村の関係)

全部の事実について

14 被告人磯村興里の

(1)  第四二四事件の第一回公判調書中の供述部分

(2)  公判供述

15 藤川和久の検察官調査書謄本(甲ロ46)

第一の各事実について

16 被告人磯村興里の検察官調書(乙ロ2)

17 被告人加藤一枝の検察官調書(甲ロ25〔謄本〕、26〔ただし、不同意部分を除く。〕〔抄本〕)

18 藤川和久の検察官調書謄本(甲ロ46)

19 磯村雄喜、磯村兵衞、杉浦甲、金澤正一、加藤等、幸地由里子の質問てん末書謄本(五通、甲ロ8ないし10、13、17)

20 査察官調査書謄本(五通、甲ロ7、12、14、15、16)

21 証明書謄本(甲ロ20)

22 捜査報告書謄本(甲ロ24)

23 登記簿謄本(二通、甲ロ1、2)

第一の一の事実について

24 証明書謄本(三通、甲ロ4、19、20)

第一の二の事実について

25 証明書謄本(二通、甲ロ5、21)

第一の三の事実について

26 証明書謄本(二通、甲ロ6、22)

第二の事実について

27 被告人磯村興里の検察官調書(乙ロ3)

28 竹本末男の

(1)  検察官調書謄本(甲ロ45)

(2)  質問てん末書謄本(三通、甲ロ42、43、44)

29 被告人加藤一枝の検察官調書謄本(甲ロ33)

30 渡邉好之、藤川和久の各検察官調書謄本(甲ロ34、46)

31 竹本幸吉の質問てん末書謄本(甲ロ29)

32 証明書謄本四通(甲ロ27、28、37、38)

33 査察官調査書謄本三通(甲ロ30、35、36)

34 回答書謄本(甲ロ31)

(争点に対する判断)

1  各被告人の弁護人は、(1)被告人加藤の次女幸地由里子に対する支払利息を否認するのであれば、由里子と被告会社との土地(工場敷地)賃貸借契約は有効に存続しているから、右土地の地代相当分(少なくとも年額一八〇万円)は、経費として控除すべきであって、被告人加藤にも被告人磯村にも脱税の故意もない旨主張する。

また、被告人磯村の弁護人は、(2)被告人磯村の検察官調書の一部(不同意部分)については、取調べの際、事実上の脅迫があり、任意性を欠く旨主張する。

2  判断

前記(2)の主張について

関係証拠から認められる被告人磯村の取調べ状況を検討しても、捜査官による暴行・脅迫等の任意性を疑わせるような事情は認められないから、任意性はこれを肯定することができるから、弁護人の右主張は採用しない。

前記(1)の主張について

関係証拠によると、被告人加藤の夫である加藤二十四が昭和五二年に死亡し、その後遺産分割により、加藤二十四が所有していた工場敷地部分は長女千鶴及び次女由里子が各自二分の一の共有部分を取得したこと、その後の被告会社の確定申告において、毎年長女及び次女に対して地代を支払う旨の経費処理がなされていたこと、その後次女がやくざと結婚したことから、被告人加藤と同磯村が相談して、次女由里子の共有持分を被告会社協友鈑金に名義を移転したこと、それに伴って、由里子に対する架空の借入金四一四三万円を計上し、各期末に年利六パーセントの割合で計算した架空の支払利息割引料を計上していたことが認められる。

他方、関係証拠によると、被告人加藤は工場敷地部分を相続した事実について、由里子に知らせていないし、その後の由里子の共有持分についての名義移転の話もしていないこと、右土地についての由里子宛の税金についても、由里子名義の銀行口座を被告人加藤が作り、全て処理し、由里子は送られてくる書類を被告人加藤に渡していたこと、また、由里子は、これまで被告会社の経営にも何ら関与したことがなく、被告会社との間で、相続した土地について契約書等も作成したこともないことが認められる。

また、被告人加藤から由里子に対する金銭交付の事実(合計二〇〇〇万円)はあるものの、定期的に交付されたのではなく、由里子から無心されるたびに被告人加藤が渡していたもので親子間の贈与ないし貸借にとどまる。

結局、名義移転前に被告会社が地代として由里子宛に支払っていた金額は、被告会社の帳簿上計上されていたに過ぎないもので、幸地由里子と被告会社との間には、父二十四の死後、本件査察までに右土地について何らの契約関係も生じてはいないのであって、事実上無償使用の状態が継続しているだけであるから地代相当分として経費性を認めることはできない。

したがって、弁護人の主張は採用しない。

(法令の適用)

1  被告会社、被告人加藤

罰条

第一の一ないし三の各行為につき

法人税法一五九条一項、二項、刑法六〇条(被告会社につき、さらに同法一六四条一項)

刑種の選択

懲役刑を選択(被告人加藤)

罰金刑を選択(被告会社)

併合罪の処理

刑法四五条前段

懲役刑につき(被告人加藤)

同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の一の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき(被告会社)

同法四八条二項

刑の執行猶予(被告人加藤)

刑法二五条一項

2  被告人磯村

罰条

第一の一ないし三の各行為につき

法人税法一五九条一項、二項、刑法六〇条

第二の行為につき

所得税法二三八条一項、二項、二四四条、刑法六〇条

刑種の選択

懲役刑及び罰金刑を選択

併合罪の処理

刑法四五条前段

懲役刑につき

同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき

同法四八条二項

労役場留置

刑法一八条

懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

(量刑の理由)

1  第一の各犯行(被告会社関係)は、総額四三九〇万円余りの法人税の脱税の事案であり、ほ脱率も各年度とも七五パーセントを越えている。

犯行の手段・態様は、次のとおり、巧妙かつ、計画的で、極めて悪質である。即ち、架空の購入部品費、架空の動産賃借料、架空の支払利息割引料を計上するという方法で所得を秘匿するというものであるが、架空の購入部品費を計上する際には、被告人磯村が実質上管理する会社あるいは同人の知り合いの会社を巻き込んで、被告人磯村の指示する金額を被告人加藤に口座振込ないしは手形を振出・交付という方法で金銭の支払いをさせ、後に額面金額から一〇ないし一五パーセント相当額を差し引いた分を被告人磯村が簿外の現金として被告人加藤にバックしていた。被告人加藤は秘匿した所得を現金、親戚名義の貯金の形で自宅に隠匿していたほか、生活費等私的な用途(この中には次女に対する合計二〇〇〇万円の貸付も含む)に使用していた。

また、犯行の動機にも、酌むべき点は見出せない。

被告会社の業績は昭和六三年ころから業績を順調に伸ばして大きな利益を挙げるようになったが、被告人加藤及び被告人磯村は、これを取引先に知られると、受注品の単価の切下げを求められるおそれがあると考え、被告会社の大きな利益を隠すとともに、将来の新工場建設資金等を確保しようとしたもので、要するに私利・私欲に出たものにほかならない。

さらに、被告人磯村は、脱税の手口・方法を考え、経理書類を整える等終始、犯行の中心的役割を果たしており、しかも、架空購入部品費の計上により一〇ないし一五パーセントの手数料(総額一二〇〇万円余り)を得ていたほか、知り合いの会社にも金銭的利益を与えて巻き込むなどしている。

次に、第二の犯行(竹本関係)は、六九〇〇万円余りの所得税の脱税の事案であり、ほ脱率も七〇パーセント近くになっている。その犯行の手段・態様は、次のとおり、巧妙かつ、計画的で、悪質である。即ち、買換特例の期限内に、被告人磯村が実質上管理する会社から竹村幸吉が事業用の機械を購入したように虚偽の書類を作成し、その会社の口座に被告人磯村が指定する金額を竹本幸吉名義で竹本末男に振り込ませ、後日、右振込分の現金を竹村にバックしていた。

また、犯行の動機にも、酌むべき点はない。

被告人磯村が売却代金についての税金をより安くすることを条件に不動産の売買契約を仲介して成立させた竹本末男の依頼で、竹本が被告会社のために新工場を建設してこれを賃貸することにより事業用資産の買換特例の適用を受け竹本らの税金を安くしようとしたが、被告会社の都合で工場の規模が大幅に縮小し、かつ、建設工事自体が遅れたため、工場については右特例の適用ができなくなったことから、竹本から強く責められたため犯行に及んだというもので、結局、被告人磯村の私利・私欲によるものにほかならない。

これらの事情に照らすと、被告人磯村の犯情は最も悪く、被告会社、被告人加藤の犯情もまた、悪く、各被告人の責任はいずれも重いものがある。

2  他方、次のとおり、酌むべき情状も認められる。

被告会社は本税、延滞税、加算税全てを納付しており、被告人加藤は、本件を反省し、事件後、経理体制を改め事件の再発防止に努めていること、被告会社、被告人加藤とも、前科はなく、被告人加藤は、夫の死後、協友鈑金の代表者として長年経営に従事してきたことが認められる。

被告人磯村は、第二の行為については、利得を得ていないこと、本件を反省しており、長年不動産業に従事してきたが、宅地建物取引主任の資格も返上していること、また、長年、被告会社の経営等の面倒を見て、その発展に貢献してきたこと、これまで前科もないこと、本件発覚により相当の社会的制裁を受けていることが認められる。

3  そこで、以上の諸情状を総合的に考慮して、被告会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人加藤を懲役一年に、被告人磯村を懲役二年および罰金一〇〇〇万円に処するが、今回に限り、被告人加藤に対し、三年間刑の執行を、被告人磯村に対し、四年間懲役刑の執行をそれぞれ猶予することとした。

(求刑 被告会社 罰金一〇〇〇万円

被告人加藤 懲役一年

被告人磯村 懲役二年及び罰金一〇〇〇万円)

(裁判官 久保豊)

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